素敵な小説に出会いました。物語の完成度はもちろんのこと、
教育的観点からも“気づき”が多かったので、
ちょっとした考察を交えながら紹介させて頂きます。
内容については、ネタバレしないよう配慮していますが、
多少の引用があるので、これから読まれる方は、ご注意ください。
|あらすじ
水墨画を通じて、主人公・青山霜介が、「美しいもの」を見つけ、「線」に見出される青春美術小説。
巨匠・篠山湖山の語る本質的な「言葉」や、登場人物たちが作品を描くシーンの「緊張感」は秀逸。
そうした中にも、大学生らしい軽快な会話や瑞々しい恋心が描かれており、ストーリーは親しみやすく、とても読みやすい作品でした。
|失敗を楽しむ

初めて水墨画に挑戦する主人公・青山に、巨匠・湖山先生が語り掛けるシーン。
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p.51
青山霜介
「でも、これが僕にできるとは思えません」
湖山先生
「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」
p.52
湖山先生
「おもしろくないわけがないよ。真っ白い紙を好きなだけ墨で汚していいんだよ。どんなに失敗してもいい。失敗することだって当たり前のように許されたら、面白いだろ?」
「いま君が経験したのが、天才が絵を描いたときに感じる感覚だよ。純粋に絵を描くことと言ってもいい。」
「もし子供のように無邪気に描ければ、その人は天才になれるよ。失敗することが楽しければ、成功した時はもっと嬉しいし、楽しいに決まってる。」
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ここで、湖山先生が語ったことを、教育の場で大人たちができているだろうか?
・「できる」ではなく「やってみる」を目的とする
・どんなに失敗してもいい。そして、失敗することを楽しむ
失敗が許されること、むしろ、それを積極的に楽しめるか?
それは、人が何か新しいことに挑戦して、学習するうえで一番大切なことかもしれません。
|社会への応用

この「積極的失敗」は、現実的にも重要なマインドセットだと思います。
カリフォルニア系の企業で言われる”Fail Fast!”(=早く失敗しろ)も、
デザインシンキングで言われる”Minimum Viable Product”での検証も、
「挑戦」や「失敗」が、価値を生むために不可欠であることを語っています。
※Minimum Viable Productとは、最小限で商品の本質的機能を備えたプロトタイプ。
最初から100%の商品で勝負するのではなく、簡易的なプロダクトで検証する手法。
日本の企業が、イノベーションの創出に苦戦し、
日本の若者が、既存の組織にウンザリしているのも、
「挑戦」や「失敗」が許されないからではないでしょうか?
変わりゆく世界の中で、「挑戦」と「失敗」を繰り返しながら、
新しい価値を生むことは、これからの私たちに求められるマインドだと思います。
|STEAM教育との関連性
最近、バズワードにもなっている「STEAM」教育ですが、
いずれも学習プロセスにおいて、試行錯誤・失敗を含むため、
こうしたマインドを育むためには最適だと思っています。
※STEAM教育…Science, Technology, Engineering, Art, Mathematicsの総称
アート・プログラミングが素晴らしいのは、
その学習プロセスの中に“失敗”が含まれているからですね。
|楽しんでいますか?

勉強を楽しめない人は、いつか勉強を止めてしまいます。
人生は長い。途中で勉強を止めるわけにはいきません。
だからこそ、勉強を楽しむことが大切だと思います。
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p.141
湖山先生
「才能やセンスなんて、絵を楽しんでいるかどうかに比べればどうということもない。」
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もちろん、受験などの現実的な都合で、
楽しくなくても、やるしかない…という状況もあるかも知れません。
それでも、FAVE SCHOOLでは、
勉強の楽しさを全力で伝えたいと思います。
そして、沢山の「挑戦」と「失敗」を通じて、
未来の社会のために、できることを頑張りたいと思います。
是非、『線は、僕を描く』をご一読ください!